菅亮平 "BLACK BOX"
@YOKOI FINE ART
東京都港区東麻布1-4-3 木内第二ビル6F
03-6276-0603
11/19(金)〜12/4(土)日月祝休
11:00〜19:00

Ryohei Kan "BLACK BOX"
@YOKOI FINE ART
1-4-3-6F,Higashi-Azabu,Minato-ku,Tokyo
03-6276-0603
11/19(Fri)-12/4(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
11:00-19:00
Google Translate(to English)
YOKOI FINE ARTでの菅亮平さんの個展です。
菅さんの作品を初めて拝見したのは武蔵野美術大学での卒業制作展で、さまざまなモチーフがモノトーンで淡くシンプルに描かれた情景が奏でる静かで暗く儚げな気配が印象的だったんですが、そのときの風合いから進化し、硬質感を獲得したダークといった感触の重厚な世界が展開されていて、その雰囲気に一気に引き込まれます。
画面に直にプンリトすることが可能な出力のテクノロジーにより、大きな画面にジオラマを撮影した画像をプリント、その上にエアブラシなどさまざまな手法による加筆を重ねることでさらに緻密にその情景が描写され、細微に渡るさまざまなグラデーションや高い再現性を誇るシャープな部分と淡くぼやけた部分とがひとつの画面に複雑に混在したなんとも深い情景が生み出されています。
元の画像自体もミニチュアの風景が撮影されているとのことで、その小ささがここまでのサイズに拡大されることでさらに独特の臨場感が導き出されているように思えます。被写体であるジオラマに加えられた表情は無論もっと小さはずで、それが大きくなることでその小さな部分に潜んでいたさまざまな質感が引き出され、表出する濃淡もいっそうダイナミックになり、現実の世界には存在しないアブストラクトな空間となって迫ってくるように感じられます。
薄汚れたトイレを描いた作品では、まさに薄汚れた感触におけるリアリティの凄まじさ、そしてその独創的な風合いにただ圧倒されます。その場面のイメージは相当に具体的に提示されていながらも、この情景の随所から「作り込み」の面白さが淡々と、しかし鋭く放たれて、要素のひとつひとつが見応えある世界へと転化しているように思えます。
荒廃した場面の臨場感はいっそう鮮烈に伝わるように思えます。
激しく剥落す壁や煤けた床、転がる椅子など要素の輪郭をシャープにし、それらを緻密に表現すればするほど朽ちていく逆方向の展開、それが導き出すテクスチャーの面白さが堪らないです。
そしてそういった空間の中央に、壁にかけられる白いキャンバスの無垢な存在感の神々しさにも引かれます。至近で眺めるとそれが拡大したものであることが認識できるほどに布地の目が大きく引き伸ばされ、それがが不思議な縮尺感をもたらして、対峙する世界との感覚的な距離感に痛快なズレを届けてくれます。
作品によってはキャンバスに直に描かれ、その目が認識できる繊細なマチエルのものも。
その画面の艶やかさが醸し出す表情にも惹かれます。
ジオラマを拡大した画面が訴えかける独特の臨場感、半開きの扉から差し込む鋭い光をそこへと目を向ける犬のなんともいえない素朴な佇まい、そしてそれらが作り込まれたものであることへのいとおしさなども感じられ、それらによってさまざまな深い想いが浮かんできます。
小品もまたひと味違う魅力を奏でます。
ぼやけた人形の画像、そこにもたらされる陰影の豊かさが、かわいらしさと儚さ、淋しさとをひとつの画面にもたらし、シンプルな場面であるのにそこにさまざまなイメージが過ります。
ジオラマを拡大したモノクロームの情景がずらりと配されることで、空間全体に横たわる重厚さにも感じ入ります。
対峙する情景は一カ所にフォーカスが当てられず、画面の隅々まで細微に至り緻密描写され、そういったなかに輪郭のコントロールが繰り出されて、それらとの距離感に翻弄され、不思議な世界へとイメージが誘われていきます。
ひとつの展示としての統一感、そのストイックさも強く印象に残ります。