福田真規「向こう側のスクリーン」
@YOKOI FINE ART
東京都港区東麻布1-4-3 木内第二ビル6F
03-6276-0603
4/22(金)〜5/21(土)日月祝休
11:00〜19:00

Maki Fukuda "screen on the other side"
@YOKOI FINE ART
1-4-3-6F,Higashi-Azabu,Minato-ku,Tokyo
03-6276-0603
4/22(Fri)-5/21(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
11:00-19:00
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前回の個展も印象的だった福田真規さん。静かな室内を丁寧な描写と巧みな陰影で描き、その空間にひっそりと置かれるデッキチェアなどから漂う残り香がそこに横たわっている悠久の時間のイメージをスムーズに思い起こさせてくれたのですが、今回の個展では全体的な色調こそこれまでの世界観を引き継ぎながらも、眼前に現れる場所は空虚さが淡々と表されている感じで、一旦立ち止まらされた次第。
画面と対峙している時点で絵のなかの世界にいるとしたら、自分が立っている場所にはむしろ何もない、前回の個展ではあったあたたかな残り香さえもいっそう希薄になってしまっている感覚に包まれます。肌で感じたいぬくもりが遠くなり、淋しさが募っていって、しかしどこへ向かえば良いのか分からないような印象。それでもじっくりとその空間と対峙していると、例えば窓の向こうに建つアパルトメントの窓から覗く暗い部屋、ここから遠い、遮られて見えない場所に人の気配が灯っているようなイメージが静かに湧いてきます。
開けっ放しの扉。すうっと吸い込まれるような気配が眼前にあって、見える場所には何もなくて、しかし影になって見えない場所に誰かがいるような...。じっくりと絵のなかの空間に身を投じて淀んでもいるような時間の流れに淡々と想像を委ねていると、過ぎ行く時間の向こうに物語がちゃんとあるようなイメージがゆっくりともたらされます。
カーテン越しに眺める窓の外。その向こうに聳えるマンション、ひとつの部屋だけではなくその建物のなかに灯る数々の営みが、ひとつひとつは小さくてもふわりと灯る明かりの群れになって観る側の脳裏を満たしていくような感じがしてきます。自身がいる場所よりも、さまざまに幾重にも遮られて直接は見えない場所へと想いが向かっていくんです。
奥のスペースにも同様に淡々とした気配がそれぞれの作品から奏でられます。
作品のサイズの如何を問わず、ただひたすら、視点を置いている自身が立つ場所からは静かに孤独感が届けられ、そして遠い見えない場所に馳せる想いがその作品の物語性を豊かにしてくれます。
ほぼ全ての作品で、直接は見えないまでも何かしらのかたちでその場所へとどこか繋がっていて気配が通じる印象があるのですが、こちらの扉ががっしりと閉じられた作品の重厚で残酷なほどの遮断との対峙は、いっそうの想像の逞しさを導いてくれます。完全に見えないからこそ、自身が居る空間に時間の流れもひたすらに重くて、しかしそこから感じ取れるスリリングさ、緊張感はいっそう強いものにも思えてきます。
おそらくはウォームな雰囲気を出そうと思えば直接提示する空間にアンティークな何かを配するだけで充分に演出でき得るような印象なのですが、敢えてそれをせず、遠い場所に気配を潜ませることで鑑賞者側に更なる深みをもたらすように感じられます。ほぼモノトーンに近い印象の暗くて静かな気配がそれぞれの作品から漂い、展示スペースをひっそりとした雰囲気で満たしながら、それらによって紡がれる世界観の表現においては相当にチャレンジングなことが行われているように思え、感じ入る次第です。