小沢さかえ個展「惑星の0.5秒」
@MORI YU GALLERY TOKYO
東京都新宿区西五軒町3-7 ミナト第三ビル4F
03-6906-9556
4/1(金)〜5/7(土)日月祝休
12:00〜19:00

Sakae Ozawa "0.5 Sekunden auf einen Planet"
@MORI YU GALLERY TOKYO
3-7-4F,Nishi-Gokencho,Shinjuku-ku,Tokyo
03-6906-9556
4/1(Fri)-5/7(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
12:00-19:00
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・・・そして2011年春の小沢さかえさんの世界はこの空間へと帰結していきます。
まず京都での展示を拝見し、そしてVOCA展で目にした横長の画面で展開されていた光景は儚さがやや強めの気配に満ちていてその情景とこのタイミングで出会えたことに不思議と感慨深さが湧いてきて納得、また嬉しくも思えたのですが、さらに続いて開催の個展では京都で感じた瞬発とそれまでのおおらかでふくよかな気配のイメージとがさらに混ざり合い、ひとつの空間にさまざまな表情が生み出され、楽しくて淋しくて、新鮮で懐かしい独創的な世界が溢れ、観る側の感性を包み込み、ポジティブさを引き出してくれるように感じられます。
入り口正面の壁面にいきなり大きな作品が出迎えてくれます。
折り重なるさまざまなパターン。そのひとつひとつが鮮やかな色彩を纏って華々しい情景となって広がっていて、そこを駆けるたてがみと尾が淡い栗毛の白馬、それに片手で捕まって空を舞う女の子の姿がおおらかな高揚をふわりと届け、一気に小沢さんの世界へと誘ってくれます。
短い通路には比較的小さな作品、そこに詰め込まれるファンタジーに魅せられます。
髭を蓄えた男性がこの世界へと迷い込んできたような何とも痛快な作品も。
情景に展開されるバラエティに富んだタッチと斬新な色彩が、男性の比較的写実性の高い姿の存在感を際立たせ、なんとも不思議なテンション感が生み出されている場面のように思えます。僅かにたじろぐような仕草がどこか戸惑っているようなイメージで、しかし何だかうらやましくもあったり。。。
大作ではさまざまな時間の交錯が引き起こされているような展開で、それぞれに引き込まれます。
まるでステージのように画面全体が大きく白のカーテンで囲まれて、そこにしゃがむ女の子の右手に掲げられる大きな円のなかに鬱蒼とした情景が現れ、その外の淡い色彩の世界とのギャップがユニークな時空のイメージをそこに導き出します。シルエットのみで表現される背景のひっそりとした気配、そこに用いられる軽やかで淡い色調が、円のなかの賑々しい凝縮感を引き立たせ、不安定なんだけどだからこそ不思議とそこに独特のバランスが導き出され、観る側の想像もぐんぐんと押し拡げられていきます。
夜空にその巨体を晒すクジラ、圧倒的なスケール感にしばし呆然とさせられるほどの、力強さとダイナミズムが溢れる大作。右下にしゃがむ女の子の手から放たれる広がる光、それは鬱蒼とした大地の至る所から天空へと届けられてます。どこまでも遠くへと連なっている広く雄大な風景とは裏腹に、夜空を漂うクジラたちのゆったりとした荘厳な姿はぐんと画面から迫り出してくるような感触で、また大地からの光はクジラたちの合間に複雑に紛れてそこに現れる縮尺感にも作用し、ふたつのダイナミックな世界がひとつの画面でクロスオーバーしていてある意味シュール、しかしだからこそ深くおおらかな幻想世界となって眺める側の心を引き込んでくれます。クジラが漂う夜空の異様な賑々しさも痛快で、それだけを観ていてもポジティブな高揚が生み出されます。
すうっと吸い込まれるような奥行きと溢れる色彩、それとは裏腹にいつもより儚さ、淋しさがちょっと強め、深めの大作にも一瞬で惹かれていきます。
画面全体に吹く風の緩やかさ、木々は繁る葉を大きく揺らし、またさまざまな色彩の破片が流れるように漂って、その色彩やかたちはかわいらしいのにどこか切なく思えてきます。
一転して地面を埋め尽くす草花たちの低い背丈で奏でられる生命の歌、こちらはぬくもりが横たわるように広がります。
そして正面に佇む女の子の姿が、それぞれの雰囲気に引き立てられて、存在の孤高さもひときわ強く放たれます。吹く風に煽られる長い髪、白い布、画面全体にもたらされる横方向への空気の動きが瞬間のイメージを、一方で遠くまで続く森のシルエットや画面上方の山並みのスケール感がおおらかで深い時空のイメージをそれぞれ届け、ここに独特の気配となって現れ、それがまた小沢さんが紡ぐ世界に対する想いをさらに豊かにしてくれます。
比較的コンパクトな画面に描かれた、しっかりと表情が描かれた肖像画にも新しい展開が感じ取れます。多彩なタッチと色使いとで繰り出される気配の独創性は保ちながら、よりくっきりと「誰か」が描かれていることで今までにないほどに強く、その世界に「輪郭」がもたらされているように思えます。
また京都でも発表されていたのと同じように、その緩さに思わずツッコミを入れたくなるような作品も。
むしろセンシティブな世界がそれぞれの作品から届けられているような印象だったこともあり、この作品のかわいらしさ、緩さがホントにこの展示のアクセントとして効いていて、和まされます。何というか「おやつ」のような感じです。
小沢さんが展示ごとに提示される世界は、ひとりのアーティストが展開していくものとしての力強さと切なさに満ち、おおきな紆余曲折を経ながらしかしその都度、いっそうの深みとおおらかさを獲得していっているように思えます。
時々胸を締め付けられるほどの淋しさがふわりとよぎり、しかしやさしさもいっしょに溢れてきて、はたまたひたすらに天真爛漫、元気さを漲らせたりひっそりと内省的に沈む静けさが奏でられたりといろんな雰囲気が混ざり合って、それが観る側にしっかりと作用しだんだんとその物語も深度を増していくような感じです。