2011年04月23日

review:加藤直個展「sunao」《4/2、4/7》

review:加藤直個展「sunao」《4/2、4/7》

加藤直個展「sunao」
CASHI
東京都中央区日本橋馬喰町2-5-18-1F
03-5825-4703
4/1(金)〜4/23(土)日月祝休
11:00〜19:00
加藤直110401.jpg

Sunao Kato "sunao"
CASHI
2-5-18-1F,Nihonbashi-Bakuro-cho,Chuo-ku,Tokyo
03-5825-4703
4/1(Fri)-4/23(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
11:00-19:00
Google translate



目にした瞬間の感情な激しさを伴うグラフィティ的な感触。刹那、抵抗感がぶわっと湧いてくる感じがするのですが、それでも何かを掴まれたような感じがしてその「何か」を探るべくじっと対峙していると、その実さまざまな要素が大胆で粗い身体的なストロークのなかに紛れるようにして描き込まれていてその密度に引き込まれ、さらに一見してコラージュで何かを貼ってあるのかと思うほどの写実性でアニメのキャラクターやさまざまなものが描写されていたりもして、ひたすら煽るような激しさを内包する過剰な混沌にユーモアや複雑に構築された世界観などが立ち上がってきて、ひとたびこのグロテスクな雰囲気に共感を覚えたらひたすらあとはポジティブにそこに現れる要素が脳内で絡み合い、新たな反応を繰り返しながら関わり続けて、さらに濃密で情動的な世界が脳内を占めていくという、そんな感じ。。。

初めて拝見したのが今回の展覧会の共同企画者のひとり、TARONASUのスタッフの鹿叉さんが一昨年のULTRAで紹介されていた展示で、受け持つ壁面をキャンバス作品で覆い尽くした極めてストレートでシンプルなインスタレーションに驚かされたのと同時に、実に雑で雑多な、捕らえ所が見つからないんだけどその密度のばらつきが何故か逆に気になって、あらためてじっくりと拝見したらそれはもう無数の発見と刺激に満ちた世界だったわけで。。。

焦燥と情動に溢れるクリエイション、その狂気に満ちたような展開と大胆でダイナミックな筆致が観る者の感覚を蹂躙し、しかし散りばめられる要素や仕掛けは数多く、かつそれぞれのモチーフの配置の感覚的な確信が何とも頼もしく思えてきます。
加藤さんの昨年の芸大での卒業制作展でも発表された大作、あらためてじっくりと対峙してみて、ひたすらワケの分からない謎めき渦巻く気配、全体を俯瞰したときに、描き込みの度合いでいうと拍子抜けするほどにすこんと抜けた感じがする背景のユニオンフラッグ、だからこその刹那的な感触に風を受けて進むようにその世界へと促され、画面中央部は言わずもがな、要素の密集の凄まじいことといったら、はたまたその周辺、何やらクラゲの傘っぽいかたちのなかに汚れたように乗る色やら落書きやらがざわめきを生み、張りつめたなかに緩急が繰り込まれるように、無数のテンションが幾重にも、そしてあらゆる方向、方面に巡らされているように思え、なんとも痛快な気分に高揚させられた次第。


加藤直_50.JPG 加藤直_49.JPG 加藤直_48.JPG 加藤直_47.JPG

加藤直_46.JPG 加藤直_45.JPG 加藤直_44.JPG 加藤直_43.JPG

加藤直_42.JPG 加藤直_41.JPG 加藤直_40.JPG 加藤直_39.JPG

加藤直_38.JPG



春めく情景を自身の世界に取り込んだような作品も。
ひたすら混沌とし、描かれるモチーフの縮尺に統一感など関係ないといった案配でさまざまなモチーフが描き重ねられ、また笑える恐怖というか、感覚的に例えば「目から何か生えてきてたら面白いよね、絶対面白い!」みたいな思いつきに情景反射的に描き加えられる余計なものが異様な存在感を得て異様な気配をそこにもたらしていたり、逆にどこか内省的な印象をもたらす要素、裸の赤ちゃんが佇む姿の無垢さや仕草、そこかしこのあっけらかんとした顔などに穏やかさを感じたりもして、ひとつの作品から得る感覚は一向にまとまっていかないのですが、しかしそれが良いというか、頼もしい痛快さとなってワクワクさせてくれます。


加藤直_37.JPG 加藤直_36.JPG 加藤直_35.JPG

加藤直_34.JPG 加藤直_33.JPG 加藤直_32.JPG

加藤直_31.JPG



顔を大きく描く作品では、そこにさまざまなかたちで生死感のようなものが表現されているようにも思えます。顔の数だけ、あるいは身体の数だけ意識や意思が交錯し、しかしその距離感やスピードは表現の具合によって千差万別、さらにさまざまなタッチが激しく描き殴られて重く濃い混沌となって観る者に迫ってきます。


加藤直_30.JPG



空間としての立ち位置がなかなか掴みきれない、くっきりと太い稜線で描かれている子供の姿はその存在をしっかりと晒しながらも浮遊感は失せず、寧ろ記憶の漂いのなかからふわりと現れたかのような儚げな雰囲気さえ醸し出します。
一方、画面左下、ちょうど大きく描かれる顔の顎のラインに沿うようにしてこちらを向いて並び、その上に積み上がるように顔が現れているところなどはそのまま記憶から無尽蔵に湧いてきているようなどこかおどろおどろしい悲しさを思い起こさせます。
大きく描かれる頭部の異様さ、鼻筋かと思って線を追っていくと別のモチーフのものだったりしてそのずらされる感覚も痛快、さらには右下の横向きの髑髏の直線的なおどろおどろしさ死の象徴でありながらもどこか活き活きとしているように感じられたり。。。
この作品については何といっても全体を覆う赤のインパクトが強烈なのですが、そこに潜むさまざまな要素が濃い気配からその存在を浮かび上がらせてせり出してくる感触に呑まれてしまいます。


加藤直_29.JPG 加藤直_28.JPG 加藤直_27.JPG

加藤直_26.JPG 加藤直_25.JPG 加藤直_24.JPG

加藤直_23.JPG



大きめのキャンバスにそのサイズいっぱいに顔が描かれるとそれだけで充分に迫力があるのですが、加藤さんの作品ではその顔の奥にも手前にも、無数に手前にも奥にもさまざまな奥行き感で顔や人物の姿などが描き込まれ、混在する縮尺や距離感が強烈に濃密な混沌を生み出していきます。ひときわ多彩な色が用いられている作品、ややかしげる大きな頭部の傾いた重力感がその内側に詰め込まれる顔や人影に不安定さを大きくもたらし、それが落ち着かない雰囲気となって覆い被さってきます。
そんななかにうっすらと浮かぶ髑髏の妖しくおどろおどろしい感触、一方で左目のなかに何ともかわいらしい女の子のキャラクターが(僕は分からないのですが分かる人には分かるらしいです。。。)いて唐突に明るく無邪気な雰囲気がきらきらと灯っていたり、はたまた画面の左下のアーモンドチョコレートの異様にリアルに描かれていることの奇妙さに魅せられたり・・・、いろんな要素が出入りを繰り返してそれがこの世界の物語を複雑に膨らませていきます。


加藤直_22.JPG 加藤直_21.JPG 加藤直_20.JPG

加藤直_19.JPG 加藤直_18.JPG 加藤直_17.JPG

加藤直_16.JPG



およそ、ひとつの画面に大きく顔が描かれていることが一貫しているということにおいてシリーズ的な展開も思い起こされますが、しかしそれぞれの画面に現れるモチーフや色彩の絶対的な違いが実におおらかなバリエーションとなって現れ、その多彩さが痛快に思えます。
一方で、雰囲気の違いこそあれ、その刹那的な雰囲気や放たれるスピード感は近いものがあるようにも感じられ、こういったかたちで繰り出されるバリエーションにも唸らされます。
しかもそれらが理性的なコントロール下で行われている感じがしないのが凄いというか、信じられないほどのバイタリティにも感じ入ります。


加藤直_15.JPG 加藤直_14.JPG 加藤直_13.JPG 加藤直_12.JPG

加藤直_11.JPG

加藤直_10.JPG 加藤直_09.JPG 加藤直_08.JPG

加藤直_07.JPG 加藤直_06.JPG 加藤直_05.JPG

加藤直_04.JPG



丸い画面の2点の作品、円というかたちの特性が活かされたような印象で、並ぶ画面の一方が髑髏、もう一方が子供の頭部で纏められているという構成や、下地のはたくさんの色彩が混ざっていてそれぞれに白の線、もしくは白を残すようなシルエットで表現されていたりと、さまざまな点での対比がいろんな想いを呼び込んでくれます。


加藤直_03.JPG



大きく顔が描かれた作品でありながら、アバンギャルドさが抑えられ、ひときわ凪いでいる静かな気配が印象的な安寧さが横たわる作品も。
大きく描かれる顔と見開かれる目は何かこちらが覗き込まれているような感覚ももたらして何となくぎょっともするのですが、眉間の辺りの広い色面が穏やかな雰囲気を醸し出し、対峙していてやや気を抜けさせてくれるのが嬉しく思えます。


加藤直_02.JPG



これほど大胆な緩急が展開されることに、ただ唸らされます。
広い画面を大きく捕らえてダイナミックに、刹那的に展開する一方で所々に立ち止まり、逆にそこを掘り進むように緻密な描写で細やかな要素を描き込んだり、筆裁きのバリエーションもそのアグレッシブでアバンギャルドな世界観におおいに作用しているように思えます。
凄く大きな作品も観てみたいです。そのときどれほど大胆な緩急が生み出されるかを想像するとホントにワクワクします。


加藤直_01.JPG
posted by makuuchi at 13:42| review | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

review:内海聖史展「さくらのなかりせば」”with”《4/9、4/14》

review:内海聖史展「さくらのなかりせば」”with”《4/9、4/14》

内海聖史展「さくらのなかりせば」”with”
GALERIE ANDO
東京都渋谷区松濤1-26-23
03-5454-2015
4/5(火)〜4/23(土)日月休
11:30〜19:00
内海聖史110415.jpg

Satoshi Uchiumi exhibition 'Sakura no Nakariseba "with”'
GALERIE ANDO
1-26-23Shoto,Shibuya-ku,Tokyo
03-5454-2015
4/5(Tue)-4/23(Sat) closed on Sunday and Monday
11:30-19:00
Google translate



もう何度も体感している内海聖史さんの世界。昨年も何度か作品を拝見する機会に恵まれてはいたものの、新作の個展を目にするのは一昨年以来となることもあり、無論今回の個展も楽しみで。しかも、同じスペースで3回目、というのは内海さんにとっても初めてとのことで、これまでこのスペースで開催された2度の展示での経験を踏まえ、今回はどのようにこのなかなかない構造の空間を解釈してくるかにも非常に興味を持ち、僕自身の期待も充分に高まっていました。

ギャラリーの入り口の扉に辿り着き、ガラス越しにスペースのなかを眺めた瞬間から一気に圧倒的な多幸感に包み込まれます。
今回の内海さんのメインの作品は、ピンクを基調とした8面のパネルに渡って展開される大作。ギャラリーに入ってまずそこに佇み、眼前に広がる鮮やかな光景に心が奪われます。空間全体も染め上げてしまうほどに明るく軽やかな色彩が溢れ、また桜の季節ということも相まって、ふわりと浮遊するような心地よい感覚が一気に膨らんでいきます。


内海聖史_38.JPG 内海聖史_37.JPG 内海聖史_36.JPG 内海聖史_35.JPG 内海聖史_34.JPG

内海聖史_33.JPG



やや甘い角度で接するふたつの壁面での展開がまず考えられ、それぞれ合わせるとふたつの壁面とちょうど同じ幅になるようにまずはキャンバスが用意されることが考えられたとのことで、しかしそれでは2面の壁に渡って展開される作品の中央部、すなわち自然にまず目が向かう部分が奥まってしまううことになってしまうため、そうならないように僅かにアールを描くような構造での展開に着手されたのだそう。壁面に沿って自然に丸まるように連なる画面はひとつの景色としてなんとも自然で、するりとその世界へと意識を誘うことにおおいに貢献しているように感じられます。

あたかも桜の森を空から俯瞰しているかのようなダイナミックな光景はただただ圧巻で、しかも内海さんの綿棒サイズのドットでの展開の作品としては今回のものが最大とのことで、この大きさにあってひたすらに一貫して凄まじい密度での展開が繰り出されていることにも感じ入ります。

しっかりと全像を拝見し、そこから至近で画面との対峙を。
意外にも、というかはやり、というか、全体としての圧倒的なピンクの印象とは裏腹に、至近で観ていくとそのピンク自体のバリエーションの凄まじい豊富さ、微妙な差異で濃淡が紡ぎ出されていることに唸らされ、またピンク系統以外の色彩も驚くほどふんだんに挿入されていて、そういった色彩の配置によってさまざまなコントラストやグラデーションがそこかしこに生まれていて、そのひとつひとつから獲得していく発見の量の多さにも呆然とさせられた次第。
大きく広がるピンクの色彩の奥に入り込むようにして、淡いグレーやブルー、内海さんの色彩という印象もあるグリーンやブラウンといった濃い色などが散見され、多幸感に満ちた画面のなかで激しいせめぎ合いも繰り広げられているようなイメージも届けられます。


内海聖史_32.JPG

内海聖史_31.JPG 内海聖史_30.JPG 内海聖史_29.JPG

内海聖史_28.JPG 内海聖史_27.JPG 内海聖史_26.JPG

内海聖史_25.JPG 内海聖史_24.JPG 内海聖史_23.JPG

内海聖史_22.JPG 内海聖史_21.JPG 内海聖史_20.JPG

内海聖史_19.JPG



さらに至近で眺めていって、そのマチエル自体の複雑さにも高揚させられます。
絵の具を付着させて画面に押し付けられる綿棒の感触、付いて離れる刹那の痕跡を思わせる小さな円形に沿って現れるミルククラウンのような立体的な盛り上がり。その密集と、重ねて打ち込まれるドットが重ねられるほうのエッジを壊していく感触。紡がれる時間の過程へと想いを馳せたときに、色彩におけるダイナミックな変化はもちろん、物理的な、立体的な構造の変遷も実にアグレッシブなイメージとなって好奇心を煽ってきます。しかもそれぞれの色彩の微妙な、はたまた大胆な差異それぞれでの衝突からもたらされる感覚も痛快で、それがこれだけの量で展開されていることを画面の前で実感し、あらためて気が遠くなったりも。。。


内海聖史_18.JPG

内海聖史_17.JPG 内海聖史_16.JPG 内海聖史_15.JPG

内海聖史_14.JPG 内海聖史_13.JPG 内海聖史_12.JPG

内海聖史_11.JPG 内海聖史_10.JPG 内海聖史_09.JPG

内海聖史_08.JPG



さらに興味深いのが、広いピンクの色面となった部分にたった1点配される別の色彩のドットの存在。そういった箇所がいくつかあり、アクセントとして非常に効いていて、その部分についてひとつの色面としての把握を許さない緊張感を醸し出します。
たったひとつの別の色彩のドットが、その広い色面に強力な視線の誘導を生み出します。ひとたびその部分に目が向かったとき、そのたったひとつのドットの存在に意識が奪われ、そこからだんだんと微妙で繊細な色彩や画面の表情からの発見を獲得していく、という流れがその都度導き出されていきます。
一瞬で、はっと掴まされる感覚とそこから緩やかに無限の質感が立ち上がって現れていく時間の経過は至高そのもの、ひたすらこの世界に感覚をゆだねて刺激を得続けていられたら、などという妄想も湧いてきます。


内海聖史_07.JPG

内海聖史_06.JPG 内海聖史_05.JPG 内海聖史_04.JPG

内海聖史_03.JPG



この大作ともう1点展示された小品。
スケール感こそ大きな差があるものの、色彩といいサイズといい、その存在はしっかりと主張していて、割合として多くを占める緑の色調とそこにふわりと乗るピンクの色面とが美しいコントラストを紡ぎ出しています。


内海聖史_02.JPG



伺えばピンクという色彩はいつか挑みたいと思われていたそうで、今回の個展は4月、すなわち人々がピンクという色彩にもっとも繊細に反応する季節、この色への感受性が高まっている時期ということもあってこの展開を実行されたとのこと。
コンパクトながらも比較的はっきりとした動線を備えたこの空間自体に、その構造を活かした展示が繰り広げられているだけに留まらず、季節的に観る側の感覚がどのうような状態かも踏まえられていることを知り、さらに深く感嘆させられた次第です。
ひたすらに抽象的で、それでいてこれだけキャッチーなイメージが提供されることにもあらためて唸らされます。


内海聖史_01.JPG
posted by makuuchi at 11:27| review | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

review:重野克明「ローズワールド・色付き」《4/2、4/14》

review:重野克明「ローズワールド・色付き」《4/2、4/14》

重野克明「ローズワールド・色付き」
MEGUMI OGITA GALLERY Showcase
東京都中央区銀座5-4-14-4F
03-3571-9700
3/31(木)〜4/23(土)日月祝休
12:00〜19:00
重野克明110331.jpeg

Katsuaki Shigeno "Rose World with colors"
MEGUMI OGITA GALLERY Showcase
5-4-14-4F,Ginza,Chuo-ku,Tokyo
03-3571-9700
3/31(Thu)-4/23(Sat) closed on Sunday,Monday and national holiday
12:00-19:00
Google translate



重野克明さんというと、やはり版画家という印象が浮かんできます。
まずそのお名前を目にするようになったのが銅版画作品での展示で、メゾチントの技法で紡がれ行くその独特の人物の表情が醸し出すレトロ感や緩さ、一方ですうっと引かれる線のひたすらに繊細な風合いや銅版画らしい細い線の密な交錯で施される部分の黒の淡い広がりなど、それぞれに強く深く印象に残っているのも大きな理由のように思えます。
しかし、思い返すと実に多彩なメディアでの展開を最近はなさっていて、初めて油彩の作品を拝見したときのクリーミーな仕上がりも印象的でしたが、むしろそれより最近、墨絵や水彩画など、また油彩で描写される雰囲気にも変化がもたらされ、重野さんが展開されるどこか大正や昭和初期を彷彿させる世界観がより豊かなかたちでその都度提示されるたびに興味深く思い、また想像も深まっていったような気もします。

先に開催された日本橋高島屋美術画廊Xでの個展で発表された、基本的に色のない世界をやや受けるかたちで、今回は展覧会タイトルに敢えて「色付き」という言葉を据えての今回の個展。しかしコンパクトな空間には「色」に拘らず、今の重野さんが表現される緩やかで深い雰囲気を備えるさまざまな味わいを持つ作品が展示されていて、それぞれの情景に備わるユーモアや気配に魅せられた次第です。

ごわついた紙を支持体に採用し、基本的に墨のみで描かれた作品。
わさわさと歪む紙の質感や漂白されてない自然な深みのある色味が重野さんの世界観と合致し、いっそうの深みを醸し出します。
そしてライオンに追いかけられる花嫁は状況を思うと相当に切迫しているはずにもかかわらずどこか追われるほうも追うほうも何故か楽しげで、そののんびりと長閑な感触に和まされます。この紙に額の部分も描かれてしまう遊びの感覚も緩やかに痛快さをもたらします。


重野克明_35.JPG 重野克明_34.JPG 重野克明_33.JPG 重野克明_32.JPG

重野克明_31.JPG



黒縁の額におさめられた絹本水墨の作品。
絹の細かい肌理に染み込む墨の黒が醸し出す繊細で清らかな滲みはそれぞれに深くて暗げな気配を醸し出し、しかし正面に並んで座る男女をはじめ並ぶ人々の表情のどこか明るくてやさしい感じ、テーブルの上に並ぶ数々の料理を思うと厳かながらも相当に賑やかな場面なんだろうなと感じ取れ、この絹本の風合いと墨の滲みが懐かしいような風合いを届けてくれているように思えます。しっとりとした気配がやさしいイメージで心を満たしてくれます。


重野克明_30.JPG 重野克明_29.JPG 重野克明_28.JPG 重野克明_27.JPG

重野克明_26.JPG



そして色のある世界へと。
とたんに重野さんの世界が色香を纏い始めます。
長い板に描かれた作品、丸い輪郭の男性のどこかセンチメンタルな雰囲気をかもす佇まい、纏う衣服の黄色や紫、足下の緑や遠くにもりもりと広がる空と雲、ふわふわ散り散りに虚空を漂うように咲く花の鮮やかさなど、それぞれの色彩が明るく溌剌としていて、それでいてどこかしら古めかしい気配もほのほのと奏でている感触に引き込まれます。
縦長の画面にもたらされるおおらかな奥行きにも魅せられます。


重野克明_25.JPG



室内を描いた作品、こちらも重野さんらしい独特の時代性がそこかしこから届けられます。
ひたすらにレトロな豪勢さで飾り付けられた室内。ひとつひとつのものものしさが、逆にユーモラスに感じられたりもして楽しげです。またそれらを描く筆さばきのどこかもりもりと溢れるような感触も印象的で、それが画面にもたらす表情もやはり独特、味わい深さをそこからも届けてくれます。


重野克明_24.JPG 重野克明_23.JPG 重野克明_22.JPG 重野克明_21.JPG

重野克明_20.JPG



楕円形の画面に、こちらは蜜蝋を用いることで得難い風合いを生み出している作品。
より曖昧に、色調やモチーフの輪郭が表出され、記憶の奥に沈む遠い気配の印象がいっそう深められているように思えます。
むしろ粗さを感じさせてくれる画面の質感が謎めいた雰囲気を醸し出し、なんだろう、という興味から緩やかにその気配へと意識が吸い込まれていくような感じです。


重野克明_19.JPG



メインの作品であるローズガーデン、紙を1枚ずつ張り合わせて連ねて展開される広々とした光景は、その画面をびっしりと埋め尽くす仄かな赤や緑といった色彩の艶やかさでいっぱいに満たされ、水彩でたわむ紙の風合いやそこかしこに潜むさまざまな要素が古めかしくも洗練された気配をふわりと放ってきます。


重野克明_18.JPG



俯瞰しているとそのおおらかな情景に不思議と爽やかな、しかしどこか静かで沈むような心持ちが湧いてきます。
至近でつらつらと眺めていくと、今度はそのなかにおさめられているさまざまな場面がそれぞれにいろんな表情を届け、コミカルでシュール、またほんのり緊張感を世界が奏でてきます。
重野さんがひたすら表現する独特の時代性を彷彿させる世界観がさまざまなかたちで提示され、デジャヴがそこかしこで引き起こされます。所々に唐突に現れる文字が、意味をストレートに伴うことで備わる力で一気に観る側の意識を掴んできたり、はたまたファンタジックで多幸感に満ちた場面がほのぼのとした気持ちを湧かせてくれたりと、連なる場面のひとつひとつがいろんな想いを届けてくれます。


重野克明_17.JPG 重野克明_16.JPG 重野克明_15.JPG 重野克明_14.JPG

重野克明_13.JPG

重野克明_12.JPG 重野克明_11.JPG 重野克明_10.JPG 重野克明_09.JPG

重野克明_08.JPG

重野克明_07.JPG 重野克明_06.JPG 重野克明_05.JPG 重野克明_04.JPG

重野克明_03.JPG



この作品、畳むと木箱に収まるのだそう。
その箱に施された絵の萌える色彩にも感じ入ります。


重野克明_02.JPG



気付くと版画作品がひとつもない重野さんの個展、そのひとつひとつが「版画家」の仕事としての片手間感を漂わせているように思えて、しかしそれが決してネガティブでなく、程良いテンションを紡ぎ出し、その世界をぐっと広げ、深めているように思えます。
気配の淑やかさと色彩の多幸感がなんとも印象的です。

重野克明_01.JPG
posted by makuuchi at 08:51| review | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。